キミノテノヒラノウエ。
私がミサちゃんの追求に耐えきれず、
ポツポツ、家庭教師だったことや、
8歳年上だって事をシドロモドロになりながら、説明していると、

10分程で車が店の前にとまって、スーツ姿の薫ちゃんが店に入って来る。

「てまり、帰るぞ。酔って帰れそうにないなら、すぐに連絡しろ。」
と薫ちゃんはしかめ面をする。

「早坂、『見習い中は恋愛禁止なの』ってこの間、言ってただろ。
そいつはいいのかよ。
おまえさ、周りの男の気持ちとか考えたことある?
山崎とか、田村とかこのあいだの飲み会でおまえがそう言ったから、
凹んでただろーが!」とヨウスケくんが同期の男の子の名前を言って怒った声を出す。

山崎くんと、田村くんって?
私が驚いて固まっていると、

「そんなの『俺以外の男とは恋愛は禁止だ。』って事に決まってるだろ。
呑気なチビスケはそれぐらい言って周りの男を牽制しておかないと、
すぐに喰われるに決まってるからな。」と薫ちゃんは口の端を上げてみせる。

「てまりのルームシェアの相手って、カオルちゃんですかあ?
私達にはちっとも教えないんですけど?」とミサちゃんの問いかけに、

「まあね。チビスケがオトナになるまでスタンバイ中ってところだな。」
と薫ちゃんはニッコリしてみせる。


…スタンバイ中?

「げー、嫌なオトナ。
ルームシェアも、その指輪も、恋愛禁止も自分のためかよ。」とヨウスケくんの非難の声に

「くだらん。大人は手段を選んでる暇はない。覚えとけよ。」

とフンと鼻を鳴らすので、私はあっけにとられた。



薫ちゃんはマスターにクレジットカードを出し、奢っておく。と支払いをすませ、
私をひょいと子どもを抱き上げるように持ち上げた。

「わあ!」と足が浮き上がって思わず、薫ちゃんの肩に抱きついてしまう。

顔が近い。

「チビスケ、最近軽くなってないか?」と顔をしかめて、そのまま店を後にする。


「オトナゲナイぞー!」とヨウスケくんの声と
「ごちそうさまでしたー。」とミサちゃんの声が聞こえた。
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