キミノテノヒラノウエ。
その日の夜。

商店街の魚屋さんでオススメのカツオのタタキを買って、
ネギと生姜とミョウガを刻んでいると、
薫ちゃんが戻ってきた。

玄関に迎えに出ると、

「ただいま。」と私の顔を見て、微笑み、私の腰をギュッと引き寄せた。

「か、薫ちゃん?」と私が驚いて見上げると、

ものすごく近い距離に薫ちゃんの顔があった。

バクバクと心臓が音を立て、顔が赤くなる。

薫ちゃんが私の顔をジッと見て

「まだ、ただいまのキスには早いか。」とそっと私から手を離す。

私は言葉が出せずに、クルリと後ろを向いて、バタバタとキッチンに逃げ帰る。

「こら、チビスケ、怯えるな。」

と薫ちゃんはクックと笑ってキッチンを通り過ぎて

「少しずつ、慣らさないとな。」と呟きながら自分の部屋に入っていく。



いや、だって、急に引き寄せられたら、普通、驚くでしょ。

やっと、口が効けるようになった私は

「薫ちゃんの馬鹿!」と怒鳴って、手を洗い直して、ミョウガを刻む作業に戻った。




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