嘘つきな婚約者


打ち合わせが終了したのは、もう夕方の6時を過ぎた頃だった。

オーナーを見送った父は、私を呼んで
彼を紹介してくれた。

やっと会いたかった人に会えて、ドキドキと鳴る心臓の音が、回りにも聞こえやしないかと心配するほどだった。

彼は、名前を木崎良(りょう)と言った。


私の一つ上で、大学卒業後、ボストンで仕事をしていたそうだ。

背が父より10センチは高いから、180センチ位ありそうだ。

黒縁のメガネをかけた、真面目そうな人に見えた。長めの髪型が少し暗いイメージを作っている。

顔はイケメンの部類になると思うが、あのデザインをした温かみのある人には見えず、雰囲気からは、コンクリートそのままの灰色のイメージがある。

じろじろ見るのは失礼だから、ちら見だが、何処かで会った気がした。

良と言う名前に、一瞬嫌な思い出がよぎった。
まさか同一人物じゃないよね?

私の知っている人は、良と言う名前は同じだけど、姓が違う。田所良、高校時代のたった数週間だけの私の彼だ。

父の言葉で、現実に引き戻された。

「これから、食事をしようと思うが、恵都も一緒に行くな。」

私は、決定事項のように言われ、ちょっと反感を覚えたが、逆らわず

「はい、ご一緒させて頂きます。」

と答えた。
< 5 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop