たんぽぽの幸せ
*別れ
「ーー清四郎!!!」
後方から聞き慣れた声が僕の名前を叫ぶ。
「梨紗…!」
振り返るとそこには目を赤くした梨紗の姿があった。
「あんた、長年の幼なじびに何も言わずに行っぢゃうつもり??」
泣いた後だろう。目に涙は見えないが鼻が詰まっていてダミ声になっている。
「行っちゃうって言っても、すぐ帰ってくるさ。」
「…げど、……」
まだ言いたげな彼女の顔は今にも泣きそうなので、僕は彼女の肩を強引に掴み説得を試みる。
「ーー騒がせすぎなんだよお前は。5日もすれば帰ってくるから。…お前にお土産渡しに行くから。」
「……じゃあ、5日以内に帰っでこながったらその顔面に私の拳食らわずから。思いっ切り。」
「……はい。」
こんな事になるだろうと思ったから伝えなかったのだが、どうやら逆効果だったようだ。
まさか、空港まで追いかけてくるなんて思わなかった。
「まぁ、そんなら、行ってきます。」
梨紗にいつもあまりしない笑顔を返し、僕は彼女に別れを告げた。
「ーー行ってらっしゃい…!」
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私は見えなくなるまで清四郎の姿を見届けた。
「…行っちゃった。」
また、だ。
また言えなかったや。
「………好き。」
胸に募った思いが口から零れる。
たった一言も言えない。
弱虫な私だけど、帰ってきたら伝えるから。