オオカミスイッチ 【完結】
「妻が出て行ってから
 弦にはずいぶん苦労をかけてね。
 寂しい思いもたくさんさせてしまったよ。」

ドクター蒼井は囲炉裏の火を組みなおし
囲炉裏の黒い鉄鍋の中を混ぜながら、
静かに話し出した。

「気づいたら
 寂しいときに寂しいと
 哀しいときに哀しいと
 言えない人間になってしまってね。

 そんな弦が高校生のときだったかね。
 わたしの研究の助手で、時々家のことも
 手伝いに来てくれていた女子大生がいた。
 弦は恋をした。
 研究にも、興味を持ってくれた。
 はじめて私と弦の間に、
 共通の話題ができたんだよ」
< 219 / 386 >

この作品をシェア

pagetop