夫の優しさ、夫の強さ
私が立ち去った後、
「紗耶香ちゃん、英語力すごいなあ。知らなかったよ。正志の理想的な奥さんだったのに。」
と、お義父さんが言い、
「俺は、まだ、諦めてないよ。再度チャレンジするつもりだから。」
と正志さんが言ったのを、私は、知るよしもない。
フロントに戻り、いつものように業務に追われていると、一週間ぶりに芳賀様が訪れた。
「また、お世話になります。ところで、大西さんは勤務は何時まで?」
「申し訳ありません。お教えするのは、ちょっと……。」
「わかりました。では、また。」
芳賀様は、何もなかったように、部屋に向かって行った。
その様子を、ロビーにいた正志さんが見ていたのを、またしても私は知らなかった。