夫の優しさ、夫の強さ


芳賀康人(はがやすひと)が、大西紗耶香と出会ったのは、4月だった。



日本のグランドシティホテルに出張で訪れた時、フロントで初めて大西さんを見た。

一目惚れだった。彼女から目が離せない自分に気づいた。

この俺が一目惚れ?

自分に問う。

そんなことが、あるはずがない。

女性は、いつも俺の容姿と肩書きに惹かれるだけで、俺自身を見てくれることがない。

俺に近付いてくる女性たちに、うんざりしていた。

しかし、大西さんの柔らかな笑顔、雰囲気に惹かれずにはいられなかった。

それから俺は、彼女に会いたいと言う気持ちに負け、時間を作り、頻繁に日本に飛んだ。

ニューヨーク支店を任されている支配人が、出張ばかりしていては不審がられ、両親の耳にでも入ると面倒なことになりそうだと、計画を練った。

そして、研修と称して彼女をニューヨークに呼び寄せることに、成功した。

彼女を手に入れるのに、半年は欲しかったが、日本でも人手不足らしく、3ヶ月と言われた。

仕方ない。3ヶ月でなんとかするぞと、意気込んで今日を迎えたのだ。
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