夫の優しさ、夫の強さ
午後、4時頃だった。
正志さんが、フロントに現れた。
『予約した山岡です。』
聞き覚えのある声に、顔を上げて驚いた。
『えっ、正志さん?』
「紗耶香、久しぶり。ニューヨークに仕事でくることになったから、このホテルにしたんだ。どうかな、今夜時間があったら、食事しないか?」
「仕事ですか。ええと、今夜は、予定があって……。
」
「そうか、残念だ。じゃあ、明日の夜は?明後日には帰るから、紗耶香と話もしたいし。」
「多分、大丈夫です。」
「ああ、よかった。何が食べたい?予約しておくから。」
「正志さんにお任せします。」
「いいよ。じゃあ楽しみにしてるよ。」
その様子を、フロントの裏で、芳賀さんが見ていたのを、私は知らなかった。