夫の優しさ、夫の強さ
キスしました
その時は、突然やってきた。
『Oh、no!』と言う叫び声を聞いて、ロビーに目を向けた。
子どもが山のようにトランクを積んだカートを暴走させている光景が見えた。
そして、それを止めようとしている紗耶香の姿。
俺は、走った。
間に合う筈はないが、とにかく紗耶香に向かって走った。
カートは、紗耶香が身体を張って止めた。
近づいていくと、紗耶香が倒れて足首を押さえていた。
「足をひねったのか?」
「うん、そうかも。」
と顔を歪めて答えてくる。
後の始末をロイに任せ、俺は、紗耶香を抱き上げた。
「下ろして。」
と紗耶香は言うが、
「歩けないだろ。医務室まで、運ぶだけだ。」
と、俺は、歩き出した。
医務室で診てもらい、捻挫だと言われた。
2、3日は、動かさないようにとのことだった。
直ぐにロイに話して、紗耶香をシフトから外してもらった。
紗耶香を再び抱き上げ、部屋まで運ぶと言うと、
「車椅子を使うから、大丈夫よ。」
「いや、大人しく俺の言う通りにしてくれ。
俺は、治るまで、紗耶香の世話が出来ると喜んでいるのに、つれないことを言わないでほしい」