僕は弟には勝てない
「君みたいに可愛い子は、俺のようなカッコいい男が似合うって事さ。どう? 兄貴なんかやめて、俺と付き合わない?」
「・・・」
「俺さ、美里ちゃんの事が好きなんだよ」
「・・・」
「なっ? いいだろ?」
あいつは彼女をソファーに押し倒そうとした。
「ちょっとやめてよ」
「いいじゃん。俺もう、君を見ているだけじゃ、我慢出来ないんだ」
「ちょっと、やめてって言ってるでしょ!」
「抱かせてくれなかったら、俺死んでやる! 美里ちゃん、そんなの嫌だろ? 俺の事、見捨てないよね?」
「あっ・・・」
僕がリビングのドアを開けると、弟の下で、たくし上げられたスカートの下に伸びる太ももがあらわになった彼女の姿が目に飛び込んで来た。
そんな俺を、勝ち誇ったような目で見る弟。
「お前―――」
僕は、怒りを抑えられず突進した。
と、それよりも早く、やつの股間を蹴り上げた彼女。
痛みでソファーの下に転げ落ちる弟。
「ふざけんじゃないわよ!」
僕はその声に固まってしまった。
今しゃべったのは、本当に彼女なのか?
「何もかも自分の物になるなんて思ったら大間違いよ。何? 死ぬ? いいわよ、死になさいよ」
「美里ちゃん・・・」
「生きたくても生きられない人がいるの。後に残された家族や恋人がどれだけ悲しい思いをするかわかる? 無念なのは本人もだけど、その人に関わる全ての人なの。それなのに、簡単に死ぬなんて言うんじゃないわよ。死ぬなんて・・・」
「もういい」
僕は、彼女を抱きしめた。
彼女の身体は震えていた。
「将夫さん、ごめんね・・・私、怖かった・・・」
「大丈夫だ。僕が付いてる」
「聡、帰れ。もう二度とここへは来るな。美里にも近づくな。彼女は僕の女だ。お前には絶対に渡さん」
あの時が初めてだった。
弟を名前で呼んだのは。
そして、弟がうな垂れてシケた男に見えたのも初めてだった。
半年後、僕と美里は結婚した。
弟は、僕の言いつけを守っているのか、彼女の事が怖いのか、あれから一度も僕達のマンションには来ていない。
「・・・」
「俺さ、美里ちゃんの事が好きなんだよ」
「・・・」
「なっ? いいだろ?」
あいつは彼女をソファーに押し倒そうとした。
「ちょっとやめてよ」
「いいじゃん。俺もう、君を見ているだけじゃ、我慢出来ないんだ」
「ちょっと、やめてって言ってるでしょ!」
「抱かせてくれなかったら、俺死んでやる! 美里ちゃん、そんなの嫌だろ? 俺の事、見捨てないよね?」
「あっ・・・」
僕がリビングのドアを開けると、弟の下で、たくし上げられたスカートの下に伸びる太ももがあらわになった彼女の姿が目に飛び込んで来た。
そんな俺を、勝ち誇ったような目で見る弟。
「お前―――」
僕は、怒りを抑えられず突進した。
と、それよりも早く、やつの股間を蹴り上げた彼女。
痛みでソファーの下に転げ落ちる弟。
「ふざけんじゃないわよ!」
僕はその声に固まってしまった。
今しゃべったのは、本当に彼女なのか?
「何もかも自分の物になるなんて思ったら大間違いよ。何? 死ぬ? いいわよ、死になさいよ」
「美里ちゃん・・・」
「生きたくても生きられない人がいるの。後に残された家族や恋人がどれだけ悲しい思いをするかわかる? 無念なのは本人もだけど、その人に関わる全ての人なの。それなのに、簡単に死ぬなんて言うんじゃないわよ。死ぬなんて・・・」
「もういい」
僕は、彼女を抱きしめた。
彼女の身体は震えていた。
「将夫さん、ごめんね・・・私、怖かった・・・」
「大丈夫だ。僕が付いてる」
「聡、帰れ。もう二度とここへは来るな。美里にも近づくな。彼女は僕の女だ。お前には絶対に渡さん」
あの時が初めてだった。
弟を名前で呼んだのは。
そして、弟がうな垂れてシケた男に見えたのも初めてだった。
半年後、僕と美里は結婚した。
弟は、僕の言いつけを守っているのか、彼女の事が怖いのか、あれから一度も僕達のマンションには来ていない。