僕は弟には勝てない
僕は振り返り、もう一度彼女の方へ目をやった。
「えっ・・・」
彼女がこちらを見てる?
その瞳から光るものがこぼれているのが見えた。
「運転手さん、ちょっと待ってて下さい。すぐ戻りますから」
今思えば、何と大胆だったんだろうと思う。
あの時の僕は、まるで別人だった。
僕は彼女の手を握ると、タクシーに乗せた。
「お客さん、どちらまで?」
「えっと、あの家まで送ります。お住まいはどちらですか?」
「・・・」
「あの、あなたの家は?」
「お客さん、その女性と知り合いじゃないんですか?」
「えっ? ええ」
「ちょっと、降りてもらえませんかねえ。何だか気持ち悪いんで」
「気持ち悪いってそんな・・・」
「面倒な事には巻き込まれたくないんですよ」
「あの」
彼女が初めて発した声は、小さくか細い声だった。
「あの、あなたの家に連れて行って下さい」
「えっ? 僕の??」
「ダメでしょうか」
「そういうわけじゃ・・・」
「お客さん、どうするんですか?」
「それじゃ・・・」
僕は、自宅の住所を告げた。
僕は、タクシー運転手が言うように、面倒な事に巻き込まれてしまうのだろうか。
終始うつむいている彼女。
「あ、運転手さん、そこの茶色いマンションの前で停めて下さい」
オートロックの扉を開け、僕達はマンションのエントランスに入った。
エレベーターが降りて来るのを待つ間に、ポストから郵便物を取り出した。
帰って来たら毎日やる日課だ。
ただひとつ、そこに彼女がいる事を除いては。
エレベーターのドアが静かに開く。
僕はいつものように乗り込んだ。
振り向くと、まだうつむき加減の彼女が乗り込むところだった。
僕は手を伸ばし、5階のボタンを押した。
扉が閉まる頃、彼女はゆっくりと扉の方へ向き直る。
僕は、彼女を後ろから見る形となった。
身長は僕より10センチ程度低い。
肩より少し長い髪の毛は、黒くて艶があり綺麗だった。
「散らかってますけど、どうぞ」
僕は彼女を部屋に案内した。
リビングのソファーには、朝脱いだパジャマがくたびれたように寝そべっている。
お客さんが来る事など想定していなかった部屋は、自分には快適だが、他人から見たらきっと汚い。
「えっ・・・」
彼女がこちらを見てる?
その瞳から光るものがこぼれているのが見えた。
「運転手さん、ちょっと待ってて下さい。すぐ戻りますから」
今思えば、何と大胆だったんだろうと思う。
あの時の僕は、まるで別人だった。
僕は彼女の手を握ると、タクシーに乗せた。
「お客さん、どちらまで?」
「えっと、あの家まで送ります。お住まいはどちらですか?」
「・・・」
「あの、あなたの家は?」
「お客さん、その女性と知り合いじゃないんですか?」
「えっ? ええ」
「ちょっと、降りてもらえませんかねえ。何だか気持ち悪いんで」
「気持ち悪いってそんな・・・」
「面倒な事には巻き込まれたくないんですよ」
「あの」
彼女が初めて発した声は、小さくか細い声だった。
「あの、あなたの家に連れて行って下さい」
「えっ? 僕の??」
「ダメでしょうか」
「そういうわけじゃ・・・」
「お客さん、どうするんですか?」
「それじゃ・・・」
僕は、自宅の住所を告げた。
僕は、タクシー運転手が言うように、面倒な事に巻き込まれてしまうのだろうか。
終始うつむいている彼女。
「あ、運転手さん、そこの茶色いマンションの前で停めて下さい」
オートロックの扉を開け、僕達はマンションのエントランスに入った。
エレベーターが降りて来るのを待つ間に、ポストから郵便物を取り出した。
帰って来たら毎日やる日課だ。
ただひとつ、そこに彼女がいる事を除いては。
エレベーターのドアが静かに開く。
僕はいつものように乗り込んだ。
振り向くと、まだうつむき加減の彼女が乗り込むところだった。
僕は手を伸ばし、5階のボタンを押した。
扉が閉まる頃、彼女はゆっくりと扉の方へ向き直る。
僕は、彼女を後ろから見る形となった。
身長は僕より10センチ程度低い。
肩より少し長い髪の毛は、黒くて艶があり綺麗だった。
「散らかってますけど、どうぞ」
僕は彼女を部屋に案内した。
リビングのソファーには、朝脱いだパジャマがくたびれたように寝そべっている。
お客さんが来る事など想定していなかった部屋は、自分には快適だが、他人から見たらきっと汚い。