僕は弟には勝てない
 その日、僕は一睡も出来ないまま、朝を迎えた。
 
 翌朝、彼女が目を覚ました時、僕は隣に横たわったまま彼女を見ていた。
 色白で、キメの細かい美しい肌をしていた。
 二重でくるりと大きい瞳は、閉じられていても長いまつ毛が魅力的だ。
 眉は綺麗にカットされていて、化粧をしたまま寝てしまったが、すっぴんもきっと綺麗なはずだ。
 そうしているうちに、その瞳がゆっくりと開いて僕を見た。

「おはようございます。もう起きてたんですね」
「ゆっくり眠れた?」
「はい。おかげさまで」
「それは良かった。どう? シャワーでも浴びて、さっぱりしてきたら?」
「お借りしていいですか?」
「もちろん。その間に、食パンでも焼いておくよ」
「それじゃ、お借りします」
「タオルは、洗面所の引き出しに入ってるから、好きなだけ使って」
「はい」
 
 しばらくしてリビングに戻って来た彼女はすっぴんだった。
 思っていた通り、化粧を落としても綺麗だ。
 こんなに綺麗な女性が、自分の部屋にいるなんて、今でも信じられない。
 これって、僕にとってはクリスマスの奇跡?

「ありがとうございました。おかげですっきりしました」
「パン、焼けたよ。コーヒーでいいかな?」
「はい」

 僕達は、テーブルに向かい合わせに腰掛けた。

「いただきます」
「どうぞ」

 さくっという音で、食パンをほおばる彼女。

「おいしい」
「あの、まだ名前聞いて無かったよね?」
「あっ! ごめんなさい」

 彼女は大きな瞳を更に大きくした。

「友田美里といいます。夕べから、本当にごめんなさい。どうして私、あなたに付いて来ちゃったんだか・・・」
「僕は柳田将夫といいます。そうだよね、こんなブサイクな男に好意を持って付いて来るはずはないよね。でも、放っておけなかった。あんな寒い所に、君を置いては帰れなかった。余計な事をしてごめん」
「余計だなんてそんな事ありません。私、あなたに付いてきて良かった」
「えっ?」
「思いっきり泣かせてもらえたし、あったかい身体で抱きしめてもらった。こんなに幸せに思えたのは久しぶりです」
「・・・」
「あの、また会ってもらえますか?」
「こんな僕でいいの?」
「えっ?」
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