イケメンなんか大嫌い
俊弥は『連絡する』と言っていたが、特に連絡がないままに金曜日を迎えている。
いつものように、会社近くの美味しいパン屋に寄ってから帰路に着いた。
最寄り駅に到着し、自宅までの道すがら、気付けば頭の中を巡らせている。
このまま放っておけば、なかったことに……? なんて、卑怯な思惑が頭を掠め、ひとりこっそりと苦笑いを浮かべた。
そもそも俊弥だって、実は付き合う気がないんじゃ……などと考えている間にアパートが現れる。
階段を登り部屋の方へ目線を流すと、スーツ姿の男がしゃがみ込んでいた。
「…………何で、連絡しないの」
「……んー……逃げられるかと思って」
「……」
見上げた瞳に心を見透かされたようで、僅かに汗をかく。
少し赤くなった鼻の頭が目に入り、焦った。
もう来週で11月も終わる。かなり冬めいて来たのだから、無茶はやめて欲しい。
寒そうな首元に、自分の青い厚手のストールを巻くが、照れくさくて視線を合わせられない。
「あのね、わたしそこまで人でなしじゃない。金曜なんだし、遅くなるかも知れないのにこんな……風邪でも引かれたら……」
「風邪でも引けば、心痛めてくれるかなって」
「……馬鹿じゃないの」
にやりと笑った意地悪顔にすかさず突っ込みを入れるが、頬が染まった自覚があり、顔を背けた。