イケメンなんか大嫌い
目の前に長い睫毛の綺麗な顔が、瞳を閉じている。
身をつんざくような心音に益々たじろぎ、腕が震えないよう力を篭めた。
ゆっくりと怖々近付き、やっとのことで唇を触れ合わせた。
もう何度もキスを交わしたはずなのに、まるでファーストキスかのように鼓動は収まりそうにない。
触れた部分から俊弥を求める気持ちが伝わってしまいそうで、身体を離そうとした僅かな動きを、肩を掴んだ手に阻まれてしまう。
「……ふっ……」
途端、欲しくて堪らないといったようなキスが返って来た。
再度唇を割って、濡れた舌が絡み合う感触が、わたしの頭を蕩けさせる。
どういうわけか滲み出そうな涙を堪えた。
周囲の状況などものともせず、溺れていたい衝動に駆られた瞬間、俊弥が引き剥がすように顔を背けた。
驚いて表情を窺い見ると、高揚感を孕んだ瞳が目の前に映った。
その面立ちを隠すように、後頭部を抱きかかえられ胸元に顔を埋められた。
「……やべ……」
頭上から、はぁっと甘い溜息が降る。
髪に掛かった息遣いに顔を赤くして、わたしも同じ気持ちだと思い巡らせた。
今までなら、大人しくするって言ったくせに、とか文句のひとつも垂れていたかもしれない。
俊弥の胸の中でゆっくりと息を吐き出して、理性を呼び戻そうと心を割いた。
数分をその状態のまま過ごした後、そろりと身体を離して姿勢を正し座り直す。
外を眺めている後頭部から覗く耳は、心なしか赤く染まっているように見受けられた。
最初からそれどころではなかったが、わたしも今さら外に視線を滑らせてみると、随分暗く闇が落ち始めた空に、確かに輝くオリオン座を見つけた。