イケメンなんか大嫌い
希英ちゃんは周囲を気にする素振りを見せながらも続けた。
「……どうも高校から大学の頃、相当女の子食ってたみたいな噂……っていうか、その頃遊ばれた子が友達の友達みたいでさー……」
「……へぇ」
咄嗟に笑顔を作れず、そんなわたしを察したのか冷や汗をかいた様子で質問を返された。
「……もしかして、あれからもう付き合ってる?」
「……付き合うとかの話は、してない……」
「……してないけど? ……恋愛関係っていう風に聞こえるんだけど……」
「……」
心配そうに顔を覗き込まれたが、気まずく視線を落とし押し黙っていると苦笑いでフォローした。
「……まっさか未麻ちゃんにまでそんな、適当なことしないだろうけどねぇっ。ごめん、余計なこと言って。飽くまで過去の噂だし!」
捲し立てると、彼女は逃げるように帰って行ってしまった。
後ろ姿が曲がり角の向こうへ消えると、足元へ目線を落とし、ふらふらと踏み出した。
悪気がなかったのはわかるし、心配してくれたのもわかる。
心の中で繰り返している内に、玄関を潜っていた。
廊下を重い足取りで進んでいる間に玄関の自動灯が消え、仄暗い部屋の左手の電気のスイッチを押す。
しかし灯りは点らずに、カーテンの向こうから微かに入り込む薄明りと自動車の走り去る音だけが、静かな空間に波紋を広げ胸に迫り来るような残響を覚えた。