イケメンなんか大嫌い

布団から腕だけを出し、ぐったりと身体を横たえて息を吐き出していた。
時計の秒針の音を、どれくらい聞いていたのだろうか。
お互い言葉もなく、電球色に薄明るく照らされた部屋の壁を見上げていたが、隣の人が天井を仰いだまま口を開いた。

「……お前、クリスマスはどうしてんの? イブ日曜だろ」

思い掛けない言葉に、心臓が跳ね目を瞬いた。
しかし、ぽつりと口を突いて出たのは、あしらうような返答。

「……クリスマスなんて、そんな恋人同士のイベント……」

心の中の騒めきに、抗えなかった。


「…………お前は飽くまでも、恋人やる気はねぇって?」

僅かに沈黙した後、右側から届いた静かな、そして厳しい低い声の、言葉の内容を理解してそっと振り返った。
むくりと起き上がった、均整の取れた綺麗な背中が目に映り込む。
耳の斜め後ろから、その表情は伺えない。

「……また、逃げんだ」
「……俊……」

そこでやっと事態の深刻さを感じ取り、焦燥に駆り立てられ横の腕に手を掛けると、勢いよく払われた。

「知らね。そうやって一生、逃げ回って生きてけよ」

冷たく心を壊すような響きを持った台詞に、貫かれたようだった。
余りの衝撃に動けずに、惚けている間に俊弥は出て行ってしまった。


どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。

衝動に負けて、軽はずみに傷付けた。
失言だったと気付いた時には、後の祭りだ。

< 161 / 209 >

この作品をシェア

pagetop