イケメンなんか大嫌い
憎めない言い訳
一夜明け、幾ばくか平静を取り戻した。
あまりのショックに取り乱してしまったが、これではあいつの思うツボだ。
その手には乗るもんか。
出社前、洗面台で髪を整えた後、鏡の中の自分を見据えた。
ばちっと頬を叩き、気合いを入れ直す。
もっと心を強く持って、何を仕掛けられても動じない自分でいなきゃ。
冷静になれば考えが及んだが、俊弥は『誰かさんがしょっちゅうイチャついてるのが、うざいけど』と言っていた。
おそらく、カフェの近辺で前々から感じていた視線は、俊弥のものだったのだろう。
賢司くんには埋め合わせをしないといけないけれど……もうあのカフェは使えない。使いたくない。
視線を落とし嘆息を吐きつつ、会社に到着した。
「香坂さーん、エクスプレスさんから掛かってまーす、3番」
始業から程なくして、電話が入ったらしく心臓が飛び上がる。
俊弥か……? 頭を過ぎった途端に、大きく鼓動を打ち鳴らし始めた心臓を憎んだ。
担当者を教えてくれよ……電話を回してくれた女性社員に心の中で文句を零しながら、しばし電話機を見つめたまま固まっていると、追い立てられる様にドキドキがうるさくなって行く。
観念して受話器を上げた。
『おはようございます。エクスプレスの坂井ですけれども』
違った……電話の相手を確認すると、安心したのか瞬時に緊張が解け、肩の力が抜ける。
拍子抜けしたが、俊弥でなくて良かった。
電話の向こうの明るい声と挨拶を交わし、本題に入る。