イケメンなんか大嫌い
「わかった。教えるから、返して」
「……返さない」
腕を伸ばすとその分、スマートフォンが遠ざかった。
顔の横に持ち上げ、変わらず不遜な態度を取る。
「何、子どもみたいなこと……」
遠ざかった分後ろに退いた俊弥の顔の片側を、街灯が照らす。
しかし、不遜と思われたその顔は、これまでのように人を嘲笑うようなものではなく、真顔だった。
「……そんなに嫌?」
紡ぎ出された思わぬ台詞に面食らう。
「……」
嫌だよ。あんたのことなんか。
そう言い返してやりたいのに、唇は逡巡したまま声に出せず、冷や汗が流れる。
俊弥の綺麗な顔が真っ直ぐにわたしを見つめている。
何その顔……本気……?
「……別に」
堪らず口元を手の甲で隠し、そっぽを向いて呟いた。
駄目だ、これでは照れているのがばれてしまう。
目線を落としていると、頭上でふっと漏れた笑い声が耳を掠めた。
「じゃ、画面開いて」
見上げると、手の中にスマートフォンが戻って来た。
その顔に浮んでいる微かな笑みは手元に向けられていたが、優しかった。
アプリを開いてIDを交換する。
「……また連絡する」
踵を返し、何事もなかったかのように平然と去って行った。
わたしは力が抜けてしまいそうに覚束ない足元を眺めながら、手摺を掴み慎重に階段を登った。