イケメンなんか大嫌い
……他の男? それって一次会で言ってた話?
思い返してみれば今日の開始前、『綺麗になったね』と言われた。
目まぐるしく頭を回転させている間も、金縛りのように目を離せずに立ち尽くしていた。
何分くらい、見つめ合っていたのだろう。
掴まれた腕から全身に痺れが広がるようで、連動するようにもうずっと鼓動がうるさ過ぎて、息苦しかった。
こいつって、やっぱり本当に……
わたしのこと、好きなの?
目の前の瞳が熱っぽく感じるのは、わたしの気持ちが影響しているのか。
唇を噛み締めると、俊弥の顔が更にじりじりと近付いて来た気がした。
頭の中で警告音が一層大きく鳴り始める。
まずい。こんな時に、こいつとどうにかなったりしたら──
力の入らない手で出来うる限り、胸元を突き飛ばした。
思った通り大した威力はなく、俊弥は僅かによろめいただけ。
「…………」
唇を逡巡させていると、めげずに再度送られてくる眼差しから顔を背けた。
「……わかったから。戻る」
どうにか気を奮い立たせて絞り出したが、顔が真っ赤に染まっているのだろう、熱過ぎる。
「……ちょっと落ち着いてから、戻って来て」
頭上で言い残し、帰って行った。
最後は物分りの良い振りをしてくれて、この時ばかりは助かったと胸のつかえが下りた。
動揺させてきた張本人が『落ち着いて』なんて言うのも可笑しな話だと過ぎったが、それでも安堵感が広がり溜息を零す。
しかし心臓のドキドキはなかなか収まりそうに無い。
「……はぁ……どうしよぉ……」
店内に背を向け右肩で壁にもたれ掛かり、顔を両手で覆ってしまった。