イケメンなんか大嫌い
次に時計を視界に入れた頃には、昼を回っていた。
辺りを見回すと、随分と部屋は綺麗に片付けられていて、満足して息を付く。
衝動に突き動かされ、無心に掃除に没頭している間に午前中が終了していた。
えっと……? 何しようとしていたんだっけ……?
とりあえず椅子に腰掛け、休憩を挟むことにした。
スマートフォンのロックを解除して、画面に浮かぶカレンダーを眺める。
そうだ、賢司くんに何が食べたいか聞いておかないと。
うちに来る前に何処かで食べてから来ても良いし。
とにかくお詫びをしなきゃ。
『じゃあ、未麻ちゃんの手料理食べたいな。簡単なもので良いから』
数十分後、届いた言葉を受け、しばし思案する。
そんなもので良いのだろうか……。まぁ、それがご希望なら沿うのが良いか。
遅めの昼食の用意に取り掛かり、玉ねぎを刻みながら頭の中を巡らせる。
それなら賢司くんの好きなビーフシチューを作ろう。
明日の夜に作っておいて……付け合わせは何にしようか。買い出しにも行かなくちゃ。
お酒はビール? ビーフシチューなら、ワインとか?
まだ火曜日だし、翌日に響くかなぁ……。
自分で作ったオムライスを口に運びながら、人気のビーフシチューのレシピを検索する。
「…………」
ふと手が止まり呆けていると、皿の上の卵が鮮やかに視界を埋め、あの日の俊弥の微かな笑みが、脳裏に蘇った。
テーブルに並べられた、オムライスの皿とカクテルのグラス、弾ける泡。
気持ちは、放っておけば、泡のように消えて失くなるのか。
何故かそんな想いが胸を掠めた。