熱砂の国から永遠の愛を ~OL、砂漠の国のプリンスに熱愛される~
「何もできなかった。
ベトウィン族は、
ムスタファの出身部族なんだ。
彼らだって、
母のことを知らないわけじゃない。
母はベトウィン族のところにも
学校を建て、教えに行っていたからね。
私は、彼らのつてを頼って、
母を拘束した仲間のところまで近づいた。
だけど、背中を切られて、
気が付いたのは病院のベッドの上だった」
「もいいわ。
言わなくていいよ。ファイサル」
「入院していた病院で、
母が拘束中に病状が悪化して、
なくなったと聞かされた。
心臓が悪かったって。
持病があったんだ。家族以外知らなかったんだ。
それなのに、母は、
国王を連れて行くかわりに、
自分から人質になると言ったんだ。
年を取った老人に無理はさせられないと言って」
「ファイサル?」
「どうしてこんなことになったのか、
誰にも分らない。
長い間、ビジャールの国の教育に
関わって来た母は、自ら学校に来るように、
説得して歩いた教え子たちによって、
捕らえられた。
教育祖大切さを教えて、
送り出したベトウィンの者に拘束され、
命を奪われた。
悔しかった。
傷を治すのと、
精神的なショックを治すのに一年かかったよ。
よそから来た外国人なんて、
所詮、そんな扱いを受けるんだと思って、
どうでもよくなった。
何もやる気が起こらなかった。
私は、ようやく
起き上がれるようになって、
この国のために、
できるだけのことはしようと思った。
父の進める国の近代化と、
経済の発展を国王と一緒に推し進めて来た。
やる事は、たくさんあった」
ファイサルは、
途中で言葉を切って言う。
「空港のような大掛かりな
インフラだけじゃない。
経済を動かすには、
銀行や商取引のルールも整備しなければならない。
それから、油田の発見にも力を入れた。
日本の援助も借りて、
内陸部での油田調査が進み、
ビジャールにも石油があることが分かったんだ。
日本の丸菱商事とプロジェクトを立ち上げ、
湾までパイプラインを敷き、
石油が輸出できるほどにまでになった」
「丸菱のエネルギー部門って」
「ああ、池山とは
ずっと一緒に仕事していたよ」
「池山さんと?」
「そう」