熱砂の国から永遠の愛を ~OL、砂漠の国のプリンスに熱愛される~
「ファイサル……」
「元気で」
最後は、握手だった。
力強く両手で握ってくれた。
そうして、
私の肩をポンと押して、
池山さんの方に向きを変えさせた。
力強く背中を押して、
前に行くように突き放した。
私は、立ち尽くしていた。
待って、と
声をかけることもできず、
飛び込む勇気なんかなく、
ただ、彼の姿が小さくなって消えていくのを見ていただけだった。
姿が見えなくなって、我に返った。
ファイサルが、私の前から消える?
そんな……
そんなの受け入れられる?
彼のところに行かなきゃ。
何度か
ファイサルの名前を呼んだけれど、
彼は気付かずに行ってしまった。
駆け寄って、もう一度話をしよう。
「だめ!待って!行かないで」
一歩前に出た。
でも、行くことはできなかった。
私の体に池山さんの腕が絡みついていた。
「美夜、止めろ。
ついてくことなんかできないだろう?」
彼のもとに行こうとしたけれど、
池山さんが私の腕をつかんでいて、一歩もそばには寄れなかった。
「美夜、行くよ」
「どうしよう……」
彼がいなくなっちゃった。
今さら泣いたって遅いのに。
彼を失うことと、
自分が未知の世界に飛び込むことと、同時に考えることが出来なかった。
そのことは、
愚かしくて考えたくない。
だって、いくら考えても、
後戻りできない。
どうしようもないんだもの。
「そうだね、どうしようか?
この後の便で羽田へ向かうかい?それとも、車を運転して帰ってもいいけど」
「早く東京に帰えりたい」