熱砂の国から永遠の愛を ~OL、砂漠の国のプリンスに熱愛される~
平日の夕方、東京へ向かう機内は空いていた。
離陸してすぐ、足元に大きな海が広がっていた。
『ビジャールにも海はある』
ファイサルの言葉を思い出した。
泣かないように、何とかこらえる。
飛行機は、分厚い雲の中を通り抜けていく。
ファイサルを乗せた飛行機も、同じようにこの雲を抜けて行ったのだろうか?
隣に座っていた池山さんが、優しく背中をさすってくれた。
気が付いたら池山さんの腕に涙が落ちていた。
泣いているのを隠しても無駄だと思って、ハンカチを出す。
一度泣きだしたら、感情が高ぶって、むせび泣きが止まらなくなる。
「もう。見ていられない」
私は、彼の腕の中に抱かれて飛行機が離陸するのを見守った。
「今日は、俺がずっとそばに付いてるから」
池山さんは、ぎゅっと私を抱きしめた。
ファイサルは、こんなふうに、池山さんに慰めてもらえと言いたかったのだろうか?
そのために、彼を呼んだのだろうか。
池山さんは、私を胸に抱いて、片時も離れないようにしている。
ファイサルは、何を望んでるの?
私のことは、きれいさっぱりと切り替えて忘れちゃった?
頭の中は、すでにビジャールの国のことで一杯になってる?
「お飲み物は、何になさいますか?」
飲み物の機内サービスだ。
何を飲むのか尋ねられた。
「コーヒーでいい?」
「ええ」
「じゃあ、二つ」
池山さんが代わりに答えてくれた。
カップを置いたまま、中の液体をただ見つめていた。
「ミルク、早く入れないと冷めちゃうよ」
いいえ、いらないわ。と答えたつもりだけど。
池山さんは、私の返事を聞かずに、コーヒーにミルクを入れてかき回した。
「ありがとう」