熱砂の国から永遠の愛を ~OL、砂漠の国のプリンスに熱愛される~
私は、外国人相手のインバウンドツアーを得意とする旅行会社で働いている。
要するに外国人を連れて、日本中を案内して旅をするガイドのことだ。
この仕事をしていると、献身的にお客様に尽くすことになる。
仕事だから尽くすのは当たり前なのだが、
よく年配の女性のお客様から息子の嫁に
来てくれと言われることがある。
スーザンもそうだけれど、
息子のために嫁が欲しいというよりは、
私という話し相手が欲しいのだ。
だから、まあ、
息子の嫁に来て欲しいというのは二の次だ。
気に入ってもらって嬉しいと思う反面、
女心としては微妙である。
『君と離れたくない』
なんて、若い男性にそんなふうに
言われたのはどのくらい前だろう。
ウォーレス夫婦は、
カルフォルニアで会社経営をする余裕のある方たちだ。
夫妻とも、アメリカ人にしても巨体だけれども。
いっそのこと、
本当に彼女のところに嫁に行ったら楽しいかも知れない。
いや、この夫妻と暮らすのは、
あんまり楽しくないんじゃない?。
第一、アメリカにずっと住むなんて、
胃袋が持たない。
ウォーレス夫妻も旅行の間、
美夜の食べる量は、
ほんの少しで遠慮してるといって聞いてくれなかった。
「小鳥のような食事の量ね」
とずっと私の食べる量が少ないと、こぼしていた。
確かに。
大きなアメリカ人からすれば、
私は小さな小鳥みたいなもんだ。
夫妻と一緒なら私は、一年もしないうちに
フォアグラのような肝臓になってしまうだろう。
そんなこと考えてる間に、搭乗手続きが始まった。
ロス行きの便のアナウンスが聞こえて来た。
「さあ、行くよ。そろそろ時間だ。
名残惜しいが、私達は息子のもとへ帰るとしよう」
ご主人の方は、現実的だ。
「ねえ、本当にアメリカに来るつもりはないの?」
スーザンが名残惜しそうに手を取って言う。
「ええ、申し訳ありません。私は日本人ですから。
(納豆とお味噌と海苔のある国)
日本にしか住むことができないんです」
二人はゲートを通って進んでいった。
私は二人が見えなくなるまで手を振った。
二人が視界から消え、
姿が見えなくなっても、
頭を下げたままでいた。