熱砂の国から永遠の愛を ~OL、砂漠の国のプリンスに熱愛される~
ロビーを歩いていたら、どしんと何かにぶつかった。
「痛っ」
はしたない言葉を口に出してしまった。
ぶつけた痛みでとっさに出た言葉だけれど、
ガイドとしては不謹慎だ。
どこで、誰が見ているか分からないから。
固い頑丈なものにぶつかって、
体がぐらっとした。
逞しい腕がすっと伸びて来て、
腕をつかんでくれたので、私は床に倒れ込まずに済んだ。
それにしても、なんて頑丈なの?
相手の人はびくともしなかったみたい。
それに、とっても背が高かった。
私がぶつかったのは、仲間同士数人で話をして男性だった。
私は、ずっと下を見て歩いていたし、
相手は私に気が付かなかったみたいだ。
外国人だし。早口に話してたから、
私のはしたない日本語は、聞こえていないだろうと思った。
あまり、お行儀がよくなかった。
だけど、まあ聞こえてないだろう。
気にしなくて大丈夫かな。なんて思った。
そう思った瞬間に、
「大丈夫ですか?」
と、きれいな日本語が上から降って来てた。
私は、思わず相手の顔を見上げた。
立っていても見上げるだけの身長差があった。
「ええ、大丈夫です」
彼の顔の位置が高いから、山を見上げるようにして見る。
外国人だ。やっぱり骨格が違う。
壁に当たったみたいに跳ね返されてしまったもの。
小柄な日本人女性なんて、ひとたまりもなく吹っ飛んじゃった。
その私を飛ばした男性は、おおよそ30歳前後。
日本人とは違う。
アラブ系の堀の深い、印象深いきれいな顔立ちをしていた。
アラブの民族衣装は着てないけど。
仕立てのいい、
グレーの上質の生地のスーツを着ている。
どことなくいい匂いをさせて、姿勢よく立っていた。
私は、彼の顔を見つめたまま
「大丈夫です」と日本語で答えた。
ん?
日本語理解できなかったのかな。
彼は返事をしないで黙って私の顔を見つめている。
こういう人は、たまにいる。
日本人だと思って話しかけて来るけど、
それほど日本語を知ってる
わけじゃないっていう人。
私は、日本語で返しても
通じないのかなと思って、
アラブ語でなんて言うんだっけと考えていた。