レンタル彼氏–恋策–

 この時、初めて心晴のことが分からなくなった。凜翔に対する複雑な気持ちを察してくれているはずなのに、あえてその張本人を大学祭に呼び出そうとするなんて……。悪意はないとしても、心晴がそんなお願いをしてくる理由が想像できない。

「でも、たしか軽音楽部もライブやるから、凜翔がレンタル彼氏するのは無理じゃない?」

「そこは問題なし!すでに予約してあるからっ」

「マジかっ!!」

 つい、大声で反応してしまう。心晴の意図がますます分からなくなった。

「ひなたはもう凜翔君には会いたくないかもしれないけど、お願い。あたしのワガママ聞いてほしい」

「心晴……」

 それ以上、私は反対できなかった。心晴は来月から彼氏のイサキさんとも離れ、知らない土地でやっていかなきゃならないんだ……。

 それに、心晴がこんなに何かを頼んでくるのは初めてだった。今まで何度も助けてくれた心晴に、こんなことで恩返しできるなんてちっとも思わないけれど。

「分かったよ。心晴がそうしたいなら」

 財布から1万円札を三枚取り出し、心晴に渡した。

「凜翔を呼んで、三人で楽しも。レンタル料金、これで足りる?」

「お金はあたし出すよ、ひなたはいてくれるだけでいいからっ」

「ううん。出させて?引っ越し祝いっていうのとはちょっと違うかもしれないけど、心晴に何かしたいってずっと思ってたから」

「ありがとう。ひなた」

 受け取ったお金を丁寧にしまい、心晴は嬉しそうに笑った。その目には少しだけ涙が浮かんでいた。

 心晴の喜ぶ顔が見られるなら、出費も痛くない。凜翔に会うのは気が進まないけど、それが心晴の喜びになるなら、私は頑張るだけだ。
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