レンタル彼氏–恋策–

「俺の部屋、来る?」

「……ここって」

「ひなたの知りたいこと、全部話す覚悟したよ。何でも答えるから」

「うん……。どういうことか、教えてね」

 そこは、過去に何度か訪れたことのある場所だった。

 凜翔が車を停めた駐車場は、昭の自宅のもの。表札は海崎(かいさき)。

 よく知る家の中に招かれ、凜翔の部屋に通された。想像通りピアノがあって、昭の部屋より整頓が行き届いていたけど、初めて好きな人の部屋に入る時特有の緊張感は吹っ飛んでいた。

 凜翔も私も、部屋の真ん中に突っ立ったまま互いの様子を伺い合う。先に重たい沈黙を破ったのは凜翔だった。

「ひなたから元彼の…昭の話聞いた時、初めてその名前を聞いたみたいな反応したけど、本当は聞く前から知ってた。昭は俺の兄。優さんとも何度か会ったことある」

「そんな……。じゃあ、知らないフリして私の相談とか聞いてたってこと?」

「そうだよ」

 二人の関係を知って驚きもあったけど、スッと納得できた。凜翔や昭はたった3歳差の兄弟。外見も違うけど、やっぱり家族。私は無意識のうちに彼らの声やしぐさに共通点を感じていた。二人は似ている。

「じゃあ、凜翔にとって紗希ちゃんって何なの……?私に、紗希ちゃんとは会ってほしくなかったって言ったよね」

「昭に紗希を引き合わせたのは俺だからだよ」

 何を言われたのか、一瞬分からなかった。

「どういうこと?だって、凜翔はレンタル彼氏で、私の相談とか乗ってくれてたよね……」

「……言葉通りの意味だよ。昭とひなたを別れさせる原因を作ったのは、他でもない俺だから」
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