レンタル彼氏–恋策–

「ックシュン…!!」

 住宅街の歩道をトボトボと歩いているとクシャミが出た。昼前とはいえこの時期の外は寒いし、泥水をかぶったままだったからなおさらだ。

 凜翔が貸してくれた上着とバスタオルがわずかに風よけの役割をしてくれるけど、そこから香る優しい匂いで胸がギュッとしめつけられ、体が震えた。

 講義あるけど、今日は大学行きたくないな……。でも、とにかくまずは着替えないと、帰るにしてもこんな格好じゃ電車に乗れない。

 大学から近いショッピングモールに行くことにした。出費は痛いけど、ここからなら家に帰るより早い。

 歩きながら、数少ない凜翔との出来事を思い出してしまう。そこで、ふと引っかかっていたことが解決した気がした。

 もしかして……!

 凜翔と買い物した日、車を取りに行くと言っていた彼についていこうとしたら、さりげなく同行を拒否され、ショッピングモールで待つことになった。

 あの時はモヤモヤして仕方なかったけど、凜翔がああしたのは、自分が昭の弟だと知られたくなかったから……?

『ひなたの知りたいこと、全部話す覚悟したよ』

 さっき、凜翔はそう言った。私も彼の話を聞く覚悟をしたはずなのに、耳を傾けるどころか感情的になり逃げ出してしまった。凜翔にはまだ話したいことがあったかもしれないのに…!

 やっぱり、引き返そう。話をちゃんと聞かないと…!着替えなんて、今はどうだっていい!
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