レンタル彼氏–恋策–

 凜翔のバスタオルを両手で強く抱きしめ引き返そうとすると、スマホが着信を知らせた。発信者の名前を見てドキッとしてしまう。

 電話は優からだった。

 そういえば、最近大学で優を見かけない。こうして電話がかかってくるのも、別れて以来初めてだ。

 気が引けたものの、優の近況が気になったのでおずおず出ることにした。

「もしもし、優?」

『よかった、出てくれて。久しぶり。元気?』

「そうだね、久しぶり……。元気だよ」

 優の声は相変わらず優しくて、聞いていてホッとしてしまう。こんな状況だからよけいに。

「最近大学で見かけないけど、大丈夫?休んでるの、私のせいかなって……」

『ひなた、考えすぎ。全然そんなんじゃないよ。ホントに』

 電話の向こうで優は笑った。その顔を想像でき、ひどく懐かしい気持ちになる。

『泊まり込みで他県の親戚の店の手伝いに行ってたんだよ。お金欲しかったし、今年の分の単位はだいたい取れてるから。今日から普通に来てるよ』

「そうだったんだ。偉いね、お疲れ様。でも、大学祭の準備とか大丈夫?もうすぐ本番だし」

『大丈夫だよ。先輩や後輩に事情話して任せてあるし、元々そんなにやることなかったから。それより、ひなたの方こそ大丈夫?今日、途中で大学抜け出したって聞いて……。講義、間に合う?』

 優にまで早退のこと伝わってるんだ……。大学内の情報網ハンパないな。でも、優の親衛隊のメンバーに責められたなんて正直には言えない。そしたら優は気にしてしまう。
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