レンタル彼氏–恋策–
杏奈は今、大学生活のかたわら洋菓子店のバイトに行っていると言った。
杏奈は入学当初からお菓子作りが好きだと言っていた。雑談だけする軽い付き合いと思ってたけど、何度か手作りクッキーやケーキをもらったこともあった。お礼にご飯をごちそうしたりしてたけど、まさかそこまで感謝されてるなんて思わなかった。
『ひなたにとってはささいなことでも、その優しさが人を救ってるってこと、あると思うよ。だから、大学で何か言われても気にすることない。私は味方だからさ!』
杏奈の言葉が、今までで一番あたたかく感じたし、素直に受け入れられた。
「感謝されるようなことなんて全然してないけど、でも、杏奈の力になれたのなら私も嬉しい。最近大学行くの憂鬱だったけど、杏奈のおかげで気分が楽になったよ」
ウワサなんて、もう気にしない。少なくとも分かってくれる人はいるんだから。
杏奈との電話を切る頃には、海崎(かいさき)家が目に入る所まで来ていた。緊張したけど、グッと両手を握りしめ自分を奮い立たせる。
何を聞いても、もう、凜翔から逃げないーー!
深呼吸をして先に進むと、玄関扉にもたれている凜翔と目が合い、
「っ……!」
私は思わず息をのんだ。
凜翔は、さっき私に振り切られた後からずっと、家の中にも入らずこうして外にいたらしい。
「ひなた……」
「ずっとそこに立ってたの?」
「うん……」
追いかけたかったけど、そんな資格ないから。凜翔の目がそう言い、悲しげに揺れる。
「もう逃げないから。話、聞かせて……」