レンタル彼氏–恋策–
「なんで俺のためにそこまで無理するんだよ。ちゃんと寝てろ。全く……」
困ったように優しく手を繋いでくれる昭に安堵して、しばらく目を閉じた。普段家のことなんて何もしてなさそうな昭が私のためにせっせと布団を敷いてくれたのがただただ嬉しかった。
途中、昭が部屋から出て行ったことも気付かず、私はぐっすり寝ていたらしい。
その時だった。隣の部屋からピアノが奏でるメロディーが聴こえた。意識がはっきりしない中でも、その音はとても心地よく印象に残った。
その時のことを、凜翔は語る。
「昭の彼女が倒れたって聞いて、さすがに俺も心配になった。父さんと母さんは留守だったし、病状ひどいなら医者呼ばないとと思って、ピアノの練習中断して昭の部屋に行った。それが、俺が初めてひなたに会った日」
「そうだったんだ……」
その時、凜翔に会ってたんだ……。全然記憶にない。昭の部屋で寝込んだことは覚えてるのに。
「この前、軽音楽部の部室で凜翔が弾いてた曲、有名だよね。だけど、街中やテレビとか以外で過去にもどこかで聴いたことある気がして……」
「覚えてたんだ。……そうだよ。部室で弾いてたのも、寝込むひなたに聴かせてたのと同じ曲だよ。ショパンの『木枯らしのエチュード』」