レンタル彼氏–恋策–
それから、凜翔は自分のことをポツポツと話し始めた。
「高校、音楽科に行ってたんだよ。でも、毎日毎日、息がつまりそうだった。先生から見たら才能ある生徒だったみたいで、過剰に期待されたり、音楽科の中の生徒で俺だけ厳しく監視されてた。ピアノ弾くのが好きで入った高校だけど、完成度の高い演奏が義務みたいな授業方針にも気後れして……。モチベーションって演奏にも表れるから、その頃、ピアノもうまく弾けなくて行き詰まってた。周りの期待の分、できないと干渉ひどいし……。悪循環だよね」
悩む凜翔を救ったのは、寝込む私が口にした一言だった。
「こんなに感情豊かで優しい音楽、初めて聴いたよーー。ひなたはそう言って笑った。その後すぐ眠っちゃったから、寝言だったのかもしれないけど……」
「私、そんなこと言った?」
「そういう反応になるよね。うん。分かってた」
私の反応に呆れるでもなく、凜翔は微笑した。
「先入観のない素直なひなたの感想がとても嬉しくて、心の奥までしみわたるように優しくて、涙が出たよ。色々悩んでピアノを嫌いになりかけてたけど、本当は演奏するのが好き。その気持ちを思い出せたから、その後はまっすぐ音楽に向き合えた。大学では自由に音楽やりたかったから音楽系の大学には進まなかったけど、高校の3年間しっかりやり遂げたっていう自信が今の自分を支えてる。ーー他にも好きな曲たくさんあったのに、あの日から『木枯らしのエチュード』は俺にとって特別な曲になった」
凜翔は、音楽科での授業がつらい時にこの曲を弾いて自分を鼓舞し、私のことを思い出してくれていたそうだ。