レンタル彼氏–恋策–
凜翔ほどその時の事を明確に覚えていないのが残念で仕方ないけど、無意識に彼のピアノを覚えていたことは私もすごく嬉しい。
和む私を切なげに見つめ、凜翔は言った。
「昭の彼女だって分かってたし、憧れで終わらせるつもりだった。でも、できなかった」
昭と私の間に立ち入る隙はない。そう思い、凜翔は家に居ても、昭が私を連れてきた時は自分の存在を隠すようにしていた。そんなことが日常となったある日、凜翔は昭の行動に疑問を感じるようになったという。
「……ひなたも気付いてたかもしれないけど、昭はひなた以外の人とも仲良くしてた。リビングで電話したり、駅前で会ってるの見た。それも、一度や二度じゃない」
「そ、そうだったの!?全然知らなかった……」
「ごめん……。知ってると思って……。よけいなこと言ったね」
「ううん、平気」
昭と付き合ってた頃に聞いてたら大ダメージを受けただろうけど、昭への未練が消え去った今なら落ち着いて受け止められる。……多少、腹は立つけど。昭のヤツ、紗希ちゃん以前にも女の子にいい顔して、最悪浮気を繰り返してたのかもしれないのか。
私の気持ちを気遣って言葉を濁(にご)そうとしていた凜翔も、
「私なら大丈夫。凜翔の話、最後までちゃんと聞きたい」
そう言うと、静かにうなずき答えてくれた。
「どうやったら昭はひなたのことだけ大切にするようになるだろう……。色々考えて遠回しに昭に色々言ったけど全然通じてなくて、いい加減な行動やめそうになかった」