レンタル彼氏–恋策–
「俺からもお願いしていいですか?」
「はい…?何ですか?」
「敬語はナシでいきましょ?」
「え?でも……」
相手が明らかに年下だと思えても、初対面の相手にタメ語は話せない。私の気持ちを読んだのか、凜翔君はイタズラな瞳でこちらの顔を覗き込んできた。
「俺も普通にしゃべるから。ダメ?」
「ダメじゃ、ないです」
「じゃあ決まり!俺のことも、凜翔でいいから。行こ、ひなた」
手を伸ばされて、思わずつかみそうになってしまう。何してるんだろ!たとえレンタル彼氏のサービスだとしても、好きでもない人と手をつなぐとかナシでしょ!とっさに手を引っ込め、私は凜翔の前をずんずん歩いた。凜翔は遠慮がちに追いかけてくる。
「手つなぐの、苦手だった?」
「苦手じゃないけど……。これでも一応彼氏いるから、ちょっと」
「そっか、ごめん。そうだよね。ひなた可愛いもん。彼氏いて当たり前だと思う」
褒め言葉もド直球。なるほど。言葉や仕草で女性を気持ちよくさせる、それがレンタル彼氏の仕事の本質なんだろうな。
「自分ではそんな風に思わないけど、褒めてくれてありがとう。凜翔」
「ううん。本当のこと言っただけだよ」
その時、凜翔の笑った顔が、少しだけ寂しそうに見えた。