レンタル彼氏–恋策–
凜翔は朗らかに映画の感想を言い、私の意見も求めた。待ち合わせの時の他人行儀な空気からは考えられないくらい、私達は長年の友達同士みたいに語り合っている。
「主人公の向こう見ずな性格、好き!」
「俺も!友達になりたい!」
「うん!共感できるよね!やること全部無謀なんだけど一生懸命なとことか応援したくなる!」
「分かる分かる!」
楽しかった。時間つぶしのためにと適当に選んだ映画なのに、こんなに引き込まれるなんて。
映画の話題で盛り上がりつつも、どちらかともなく帰りのことを意識しはじめ、駅に足が向く。凜翔がレンタル彼氏でいてくれる時間は残り10分に迫っていた。
会う前はあんなに憂鬱だったのに、今は名残惜しい。恋ではないけど、凜翔ともう少し話していたい。こんな気持ちになるのは久しぶりだった。付き合ってる優に対してすら感じた記憶がない。
こういう場合、別れ際には何て言えばいいんだろう?『バイバイ!』『またね!』『今日はありがとう!』どうせ今日1日の関係なんだからどれでもいいはずなのに、どれも違う気がした。
考えていると、凜翔がポツリとつぶやいた。
「寂しいな。ひなたとバイバイするの」
「私も〜」
真に受けず、軽く合わせておいた。
「今日は凜翔と遊べて楽しかったよ。じゃあね」
名残惜しさなど表に出さず、私はさっと凜翔から離れて手を振った。デート終了の時間まで数分あるけど、この辺りがベストタイミングだと思えた。