レンタル彼氏–恋策–
電話の向こうで、ゆっくり待ってくれる優の気配。
『別れてほしい』。用意していた言葉は、ここへきてお腹の奥に引っ込んでしまった。どうして…?
『ひなた、大丈夫?今話すのが無理そうなら、明日ゆっくり聞くよ』
「ありがとう。お願い」
『疲れてる?バイト、無理しないでね』
「ううん、元気だよ!優も明日こっち来る時気をつけてね」
『分かったよ。ありがとう』
電話を切り、ただならない気持ちになった。優の優しさが胸に痛い。絶対、変に思われたよね?
その日の夜は、色々考え過ぎて眠れなかった。ベッドの中でスマホを手にし、ウトウトするまでニュースアプリやツイッターを流し見ていた。
凜翔とは初めて会ったはずなのに、前から知り合いだったかのような心地よさがあった。それがレンタル彼氏のなせる技なのかもしれないけど……。
「……!」
いつの間にか寝ていたらしい。今まで手にしていたはずのスマホがベッドの中に転がっている。枕元の時計を見ると午前4時だった。
浅い眠りの中で、変な夢を見た。昭の家にいる夢だ。そのせいで、寝汗がすごい。もう秋で、夜は寒いくらいなのに。
昭と別れてまだ2ヶ月ちょっとだし、別れる直前まで彼の家へ行っていたのだから、夢に出てきても不思議ではないけど……。
どうしてこのタイミングで?嫌になる。
優と付き合って昭とのことは平気になったつもりだったけど、本当はそうじゃなかったとか?
さっき、優との電話ですんなり別れのセリフを口に出来なかったのも、そのせい?