レンタル彼氏–恋策–

 電話の向こうで、ゆっくり待ってくれる優の気配。

 『別れてほしい』。用意していた言葉は、ここへきてお腹の奥に引っ込んでしまった。どうして…?

『ひなた、大丈夫?今話すのが無理そうなら、明日ゆっくり聞くよ』

「ありがとう。お願い」

『疲れてる?バイト、無理しないでね』

「ううん、元気だよ!優も明日こっち来る時気をつけてね」

『分かったよ。ありがとう』

 電話を切り、ただならない気持ちになった。優の優しさが胸に痛い。絶対、変に思われたよね?


 その日の夜は、色々考え過ぎて眠れなかった。ベッドの中でスマホを手にし、ウトウトするまでニュースアプリやツイッターを流し見ていた。

 凜翔とは初めて会ったはずなのに、前から知り合いだったかのような心地よさがあった。それがレンタル彼氏のなせる技なのかもしれないけど……。

「……!」

 いつの間にか寝ていたらしい。今まで手にしていたはずのスマホがベッドの中に転がっている。枕元の時計を見ると午前4時だった。

 浅い眠りの中で、変な夢を見た。昭の家にいる夢だ。そのせいで、寝汗がすごい。もう秋で、夜は寒いくらいなのに。

 昭と別れてまだ2ヶ月ちょっとだし、別れる直前まで彼の家へ行っていたのだから、夢に出てきても不思議ではないけど……。

 どうしてこのタイミングで?嫌になる。

 優と付き合って昭とのことは平気になったつもりだったけど、本当はそうじゃなかったとか?

 さっき、優との電話ですんなり別れのセリフを口に出来なかったのも、そのせい?
< 20 / 165 >

この作品をシェア

pagetop