レンタル彼氏–恋策–
昭と来ていた時は気にならなかったけど、一人で座っていると店内のカップルの姿がやたら目に入る。お互いのケーキを一口ずつ交換し合ってる彼氏彼女とか、彼氏に頭なでてもらってる彼女とか。う、うらやましいっ……。私もそういう思いがしたいよ。
どうして私は一人でこんなところにいるんだろ。目の前で半分にまで減ったミルクティーを見て、むしょうに寂しくなった。こんな気分になるくらいなら、家で素直にお母さんとさやえんどうのスジ取りしてればよかった。
周りの楽しげな会話や笑い声が、別世界に感じる。目が潤んできた。やばい。どうしよう。
「ひなた……?」
聞き覚えのある声が背後から聞こえた。でも、ちょっとでも動いたら目から涙がこぼれてしまいそうで、私はその声の主を振り返ることが出来なかった。
まだ、忘れてない声。思い出す楽しいひと時に、どん底まで落ちた気持ちが浮上する。
「やっぱり!ひなただ」
「……!」
当然のように相席し、凜翔(りひと)は微笑した。
「仕事でそこの料亭で待ち合わせしてて」
凜翔は、カフェの前にある高級料亭を視線で示した。芸能人をはじめ、富裕層の行きつけとして有名な店だ。なるほど。今日も指名客相手にレンタル彼氏の仕事をするんだな……。
会えて嬉しいという気持ちが、勢いよくしぼんでいく。
「それまで一緒にいていい?」
優しく尋ねてくる凜翔の瞳がセクシーで、胸が高鳴った。色々あってやっぱり疲れているのかもしれない。凜翔は仕事柄こうしてるだけ、ドキドキなんてしたらダメだ。