レンタル彼氏–恋策–

「凜翔。さっきはごめんね。嫌なこと言った……。怒っていいんだよ?」

「怒らないよ」

「怒ってよ。今はレンタル中じゃないんだから。私はただの元顧客」

「元顧客!ひなたって面白いね。あははっ」

 なぜかウケている。凜翔はおかしそうに笑った後、笑いで潤んだ目を綺麗な指先で拭き、優しい目をした。

「気にしないで?そういう時って誰にでもあるし」

「でも……。凜翔も仕事前にわざわざ声かけてくれたのにさ、私感じ悪すぎる…」

「ひなたが笑ってくれたから、それでおあいこだよ」

 本当に、何なんだろう。凜翔は優しすぎる。そういう性格なのかな。にしても甘すぎだよ。『普通』の感覚がマヒしてしまいそうだ。

「こんなにゆっくりしてて、仕事は大丈夫なの?」
「うん。時間に余裕持って来てるから平気」

 チョコタルトをありがたく食べると、凜翔は両手で頬杖をつきこちらに身を乗り出してきた。そのせいで互いの顔が近付いて、彼の髪からふわりといい匂いがした。思わずドキッとしてしまう。

「ど、どうしたの?急にっ。近いよっ」

 軽くのけぞると、凜翔は唇を尖らせ元の姿勢に戻った。

「ひなたのこと悩ませてるのは、彼氏?」

「え……?そんなことないよっ。尽くしてくれる優しい人だし」

「彼氏、優しいんだ。幸せ?」

「うん。まあまあ」

「まあまあなんだ」

 この質問、何だろう?胸がくすぐったい。
< 35 / 165 >

この作品をシェア

pagetop