レンタル彼氏–恋策–

 別れるのが優にとっての最善だと思ってた。でも、優はそれを拒んだ。

 私の手を両手でそっと包み、優は穏やかに笑った。

「耐えられるよ。片想いの頃の痛みに比べたら、こんなのなんでもない」

「そんな……」

「こんないい子と付き合えてたのに、昭はホント見る目ないよね。色んな意味でざまあみろだよ」

 優らしくない悪口は彼の優しさ。

「優……。今別れなかったら、いつか優がつらくなるよ。それに、優はモテる。私なんかよりいい子が、これからもっと現れるよ」

「そんなことないよ。好きな人に振り向いてもらえなきゃ幸せになれないって、ひなたと出会って知ったから。昭には理解できないだろうけど、男にだって心はあるんだよ。欲求だけで動いてるわけじゃない。ひなたと付き合えて毎日幸せだったよ」

 優の熱っぽいまなざし。そこにウソはないのだと分かった。

 別れ話をしていたはずなのに、それを撤回したい心持ちになってしまう。優のまっすぐな想いに触れ、私の心にあった冷たいものがじんわり溶けていくような気がした。

 付き合うキッカケは最低なものだったけど、これから真面目に優と向き合えば、違うものが見えてくるのかな?昭と付き合ってた時みたいに愛される幸せを感じ、毎日明るく過ごせる自分になれるーー?優のことを好きになれば、失恋の傷なんて忘れてしまえるのかもしれない。
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