レンタル彼氏–恋策–
心晴の車でショッピングモールに着いた時、彼女のスマホにバイト先からの電話がかかってきた。
「なんだろ?電話なんてめったにかかってこないのに。遊んでるし今は出たくないなぁ」
「緊急の用事かもよ?一応出てみたら?」
「分かった。ごめんね、サクッと終わらせるよ。
お疲れ様です。はい、はい、え!?これからですか!?すいません、あたしも友達と会ってて……。はい、はい、そうなんですか……。はい。分かりました。用意してすぐ行きます」
「緊急事態みたいだね」
「本社の人から。今日出勤するはずの子が体調不良で休んだんだって……。他に休みだった子は旅行で来れないらしくて、あたしに出てもらわないとワゴンの子いなくて困るって……」
心晴は、派遣会社を通してパチンコ屋でワゴンスタッフのバイトをしている。ワゴンスタッフとは、パチンコ屋に来ているお客さんに飲み物や軽食を販売する、女性だけしかできない接客の仕事だ。
派遣会社の人から出勤の要請がきたなんて、よほどのこと。心晴の勤める地域では、他のワゴンスタッフが出てこれないということだ。
「ごめんね、ひなた。あたしから誘ったくせに……。この埋め合わせは絶対するから!」
「そんなの気にしないで。仕事なら仕方ないよ。また一緒に買い物しよ?」
「一人で買い物してくの?家まで送らなくて大丈夫?」
「バスで帰れるから大丈夫だよ」
「ホントごめんね、ありがとう。また連絡するね」
「バイト頑張って!」
手を振り、心晴は大急ぎで来た道を戻っていった。