レンタル彼氏–恋策–
「そうだよね。新しい店とはいえ建ってから3ヶ月以上経つし、大学からも近いから行こうと思えば歩いてでも行けたんだけど、バイトとかサークルでバタバタしてて、気付いたら今日になってて」
「彼氏とも、来ようって話にならなかったんだ…?」
「そうだねー。優(ゆう)とはいつも駅周辺のショップに行くから全然」
「そうなんだ。買い物付き合ってくれるなんて、優さんは優しいね」
自分だって買い物に付き合ってくれたのに、他人事みたくそういうことを言う凜翔に、少し壁を感じた。
「って言っても、優とは消しゴムとかノート買うだけの時もあるけどね」
「いいな。優さんは、ひなたの日常全部独り占めしてる」
「うーん、そうかな?そうかも……。学内では一緒にいる時間も多いし……」
それに対して凜翔の返事はなく、また沈黙が流れた。
しばらくすると坂道を登っているのが分かった。5分くらい坂道を行くと、凜翔は平面駐車場に車を停めた。ここは、どこかの山だった。
「すごい景色……!」
さっきまで真っ暗な道を走っていたのが信じられないくらい、今いる場所から見下ろす景色には光の波がキラキラ揺れている。
「大学からそんなに遠くないよね。こんなに夜景が綺麗な場所があるなんて、今まで知らなかったよ…!」
「秘密の場所だよ」
運転席の凜翔は満足そうに微笑し、夜景を見たまま助手席に座る私の手を取った。凜翔の手のあたたかさにドキドキして安心もした。ドライブの沈黙中に感じたわずかな寂しさが消えていく。
秘密の場所と言うだけあって、私達以外の人はいなかった。