レンタル彼氏–恋策–

 凜翔がなぜそんな主張をするのか、知りたかった。あの優ですら同じゼミの女の子と番号交換くらいはしてる。私もそうだ。

「連絡先くらい、誰にでも聞かない?」

「ひなたの言いたいことも分かるけど、大切な人に悲しい想いさせたくないから」

「あ……。そっか、そうだよね」

 私、バカだ。そんなセリフで初めて気付くなんて。凜翔には彼女がいるんだーー。大切な人が。

 レンタル彼氏のバイトをしてたり、偶然会うたび優しくしてくれるから、つい、自分にとって都合の良い方に考えてた。凜翔には特別な人なんていないと、勝手に決めつけて……。

 女の子の服見るのが好きって言ってたのも、センスがいいのも、聞き上手なのも、優しいのも、彼女がいる影響に他ならないのに。

「ごめんね、しつこく訊いて」

「……ううん。こっちこそ嫌な思いさせてごめんね。変なとこ頑固だから」

「そんなことないよ。そろそろ帰ろっか」

 帰り道、凜翔は色々話題を振ってくれたけど、全部空返事ですませてしまい、どれも頭の中に残らなかった。

 凜翔には彼女がいるーー。本人はそう口にしないけど、ハッキリそういう話をしないのもしょうがないと思った。心晴(こはる)の紹介とはいえ、仕事で一度デートをした相手(私)の前でそんな話はできないだろうし。

 偶然会うたび優しくしてくれたのも、私にいい印象を与えて2回目のデートの予約を取るため。恋愛相談に乗ってくれたのも、食事をごちそうしてくれたのも、秘密の場所で夜景を見せてくれたのも、全部、仕事の成果を出すため。

 凜翔ほど器用で気遣いができる人でも、そういう営業努力は大切ってことか。レンタル彼氏はそのくらい難しい仕事なのかもしれない。

 凜翔の運転する車の中、そういったことを冷静に考えてしまう反面、胸がひどく痛かった。ズキズキと音を立て、油断すると泣きたい気持ちに襲われそうになる。
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