レンタル彼氏–恋策–
優との付き合いで、気持ちのバランスを取っていたんだと思う。凜翔のことばかり考えてしまわないように。すでに、その均衡は崩れていたのにーー。
それを証拠に、この時優が切ない顔をしていることに、私は全く気付かなかった。
それから数日後。
普段より長引いたサークル活動の帰り、私は校舎内を早歩きで移動していた。ついさっきまで部室で見ていた映画のブルーレイが、ホラーものだったからだ。
映画好きな先輩達は、大学祭の出し物にふさわしい候補作を絞るため、熱心に何本もの映画を見ている。そういう時間は好きだけど、ホラーはいまだに苦手ジャンルだ。
省エネモードで薄暗い校内は、恐ろしい映像を鮮明に思い出させる。こわい。
昇降口に向け夢中で歩いていると、サークル棟から綺麗な音色が聴こえてきた。
「ピアノ…?」
テレビなどでもよく流れている有名なクラシックだった。優しい曲調に、恐怖心も薄れていく。
音のする方につられていくと、サークル棟の二階にある軽音楽部の部室前にたどり着いた。間違いない。音はここからしている!
ノックをしようとして、やめた。関係者でもないのに訪ねるって、完全に怪しい人だよ。やめとこ!……でも、どんな人が弾いてるのか気になるなぁ。
それに、軽音楽部の人ってギターやドラムで派手な音楽をかき鳴らしてるイメージだったから、こんな繊細なピアノを奏でる人がいることが意外だ。