レンタル彼氏–恋策–

 好奇心でウズウズしつつも中に入る勇気がなくウロウロしていると、

「ウチの部に何か用ですか?」

 とても可愛い女の子がやってきた。1年生?小柄だし、顔も可愛すぎて直視できないほどだった。威圧感もハンパない。彼女は怪訝な顔をしている。

「すいません、用事じゃないんですけど、ここから綺麗な音が聴こえてきたので、つい」

「そうですか……。聴いていきます?」

「いいんですか?」

「少しなら。練習の邪魔にならないよう、隅にいて下さい」

「わ、分かりましたっ!」

 モデルとかやってそうなくらい可愛いのに、容姿の甘さからは想像つかないほど、彼女の対応はクールでそっけない。気後れしつつ彼女に続いて部屋に入り、驚いた。

 小綺麗に整頓された軽音楽部の部室。アップライトのピアノに向き合っていたのは、あんなに会いたいと願っていた凜翔だった。凜翔も、目を丸くし演奏の手をとめた。

「ひなた……。どうして?紗希(さき)と知り合いだっけ?」

 凜翔は、ここへ入れてくれた女の子を視線で示す。この子、紗希ちゃんっていうんだ。名前も可愛い。

「凜翔のピアノ聴きたいんだって。部室の前でウロウロしててうっとおしかったから面倒だし入れたの」

「そんな言い方しないで、紗希。彼女は俺の知り合いなんだ」

 口の悪さを凜翔にたしなめられ、紗希ちゃんは無口になる。明らかに拗ねている様子だ。

 もしかして、凜翔の彼女ってこの子なの……?

 部屋の隅、ムスッとした顔でマイクを磨く紗希ちゃんを見て、全身の血が逆流した。

 多くを語らなくても分かり合っている。そんな雰囲気を漂わせる二人を見て、私はショックを受けた。

 恥ずかしい……。凜翔のことばかり考えて彼のプロフィールまでチェックしてしまった自分が……。
< 85 / 165 >

この作品をシェア

pagetop