レンタル彼氏–恋策–
ただ胸が痛いだけの沈黙。なのに、私はここを離れたくないと思った。今凜翔から離れたら、もう二度と彼には会えなくなってしまうような気がして。
仕事モードじゃない凜翔と時間外のデートをして、完全に浮かれてた。優(ゆう)という彼氏がいるクセにーー。
月の光が照らす池の水面が、不気味なほど綺麗。冬色に変わりつつある夜風が寒いのに我慢していると、紗希ちゃんがやってきた。彼女の姿を見て、落ち着いたように見えた凜翔の態度はまた動揺一色になる。
「紗希……!」
「……ふーん。なるほどね」
紗希ちゃんは品定めするみたいな目つきでこちらを見やり、底冷えするような声音で私に詰め寄った。
「まだいたんだ。邪魔者はさっさと消えてよ」
「ご、ごめんなさい。練習の邪魔して!もう帰ります!」
紗希ちゃんはとても可愛い。可愛いのに、ものすごくこわかった。逃げるようにその場を去ろうと二人に背を向けてもなお、紗希ちゃんの鋭い言葉は私を攻撃した。
「凜翔まで懐柔したんだ。地味なくせに手の早い女」
「……!?」
意味が分からなかった。彼女の言葉に驚き、絶句してしまう。