レンタル彼氏–恋策–
たしかに、凜翔とはデートしたけど、特別なことなんて何もなかった。手はつないだけどそれだけで、紗希ちゃんを怒らせるような関係では決してない。現に、凜翔は紗希ちゃんのためを思って私と連絡先を交換するのを拒否した。私だけじゃない、きっと他の子に対しても凜翔はそうしてる……。
でも、紗希ちゃんの気持ちも痛いほど分かった。浮気はもちろん許せないけど、好きな人が他の女性を特別視しているのは、彼女としていい気はしない。絶対に。
「私はそんなことしてないよ。でも、誤解させて紗希ちゃんに嫌な思いさせたり、練習の邪魔したこと、本当にごめんなさい。大学祭の準備、お互い頑張ろうね」
凜翔には視線をやらず紗希ちゃんにだけおじぎをして、私はその場を去った。……これでよかったよね?
「ひなた……!」
去り際、凜翔の声が聞こえた気がしたけど、気付かないフリをした。
校門の外に出て、いつもの歩道を歩き、駅のホームに着いてもまだ、心臓が激しく高鳴っている。緊張と絶望。恐怖。そして、思わぬ場所で凜翔と会えて嬉しかった気持ち。色んな感情が混じり合っていた。
「……地味なクセに、か」
痛いところを突かれた。凜翔に選んでもらった服を着るようになってから「可愛くなったね」と言ってもらえることが増え、少しだけ自分に自信が持てそうだったけど、人間、そんなすぐに変われるものじゃない。
紗希ちゃんみたいに顔もスタイルも女の子らしくて生まれつき女子力も高そうな子が、恋愛市場では優位なんだ。
分かってた。そんなこと。でも、凜翔の彼女が紗希ちゃんみたいに完璧だなんて、不公平としか思えなかった。あんな子に太刀打ちできるわけない。