レンタル彼氏–恋策–


 自宅の最寄り駅に着く前、心晴に電話しようとしたけど、やめた。引っ越し前で心晴は何かと忙しい。

 寂しいな……。

 電車を降りても家に帰る気になれずフラフラ歩いていると、

「あれ、ひなたじゃない!?」

「杏奈(あんな)!」

「久しぶりー!元気?」

「元気元気!」

 全然元気じゃないのに、つい、ノリ良く答えてしまう。杏奈は同じ中学出身なので地元で会うのは不思議じゃない。でも、彼女と仲良くなったのは同じ大学に入ったことが分かってからで、中学時代は絡んだことがなかった。

「杏奈も元気そうでよかったよ。最近大学で会わないから気になってて」

「単位はほとんど取ったし、卒業まではバイトしながら遊んで暮らすことにしたんだぁ」

「そうなんだ。いいなぁ。私まだ単位取ってなくて、毎日講義だよ〜」

「それはそれで学生らしくていいんじゃない?」

「かなぁ」

 駅前の広場で立ちどまり、盛り上がる。元々明るい子だったけど、今年に入ってから杏奈はますますイキイキしているように見えた。

「ねえ、久しぶりだし、この後ヒマなら飲みに行かない?心晴も誘ってさ!」

「いいね!電話してみるよ」

 何となく一人になりたくなくて杏奈の誘いに乗った。心晴に電話してみたものの、来れないとのこと。引っ越しの荷造りに時間がかかっているらしい。
< 90 / 165 >

この作品をシェア

pagetop