レンタル彼氏–恋策–

 明るくなった室内を見て、優が一人暮らしをしているアパートだと気付いた。昭と付き合ってた頃、昭と一緒に何回か来たことがあるけど、彼女になってからここへ来るのは今夜が初めてだった。通りで見覚えがあるはずだ。

「ひなたのスマホで杏奈ちゃんって子が電話くれたんだ。同じ大学の子なんだって?」

「杏奈とは久しぶりに会って、盛り上がって飲んで……」

「杏奈ちゃん心配してたよ。もちろん俺も……。ひなががそんなに飲むとこ、初めて見た」

 言うなり優はベッドに座り、優しく抱きしめてきた。男の人の体だった。アルコールが抜け切っていないせいか、そのぬくもりにドキドキして、同時に寂しくなった。

 そっと腕を離すと、優は唇にキスをしてきた。いつもの優しい触れ方だったのが、どんどん濃厚なキスに変わっていく。そのままベッドに押し倒された。

「杏奈ちゃんじゃなく、真っ先に俺を頼ってほしかった」

「優……」

「ひなたの傷付いた顔、もう見たくない」

 切なげにこちらを見つめる優の瞳は、私だけを映していた。首筋や頬にぎこちなく触れてくる優に、このまま身を任せてしまおうかな……。

 凜翔を想っても届かない。紗希ちゃんには敵わない。だったらもう、優だけを見ていきたい。優に抱かれたら、昭や凜翔に対する煩わしい感情を捨てられるかもしれない。
< 93 / 165 >

この作品をシェア

pagetop