愛され系男子のあざとい誘惑

「あのね、待っているだけじゃ奇跡なんてものは起きないの!少しでも可能性があるなら行ってみるわよ!」

「で、でも、あそこは敷居が高すぎるよ。実際、行ったなんて人もいなかったし」

「入場制限があるわけじゃないでしょ?敷居が高いってだけなら誰でも入っていいってことじゃない!」

「でも、服だって普段着だし」

「どうせそんなこと言うと思ってたから、あんたに似合いそうな服持ってきたわよ」

「えっ?!」

「私、元アパレルだからあんたに魔法をかけるくらいなら容易いのよ。観念しなさい」


京香のロッカーから出てきたのは、私が欲しいと思っていた黒の花柄のノースリーブワンピース。ピンクや白、青の花柄が黒の生地にとても映えていて、シルエットも綺麗。


「京香、ここってフェミニン系のお店のワンピースだよね?タグがそうだけどここで働いていたの?」


「そうそう。だけどどうも私のタイプじゃないし、色々規則やノルマ厳しくてやめたのよね。そういえば、私たちそんな話したことなかったわね?」


「うん。本当だね。今日はゆっくり話そう」


「今日はダメ。今度ね。うん、やっぱり似合ってる。ほら見てみなさい」

ワンピースを渡され、袖を通すと京香がチャックを閉めてくれた。ここには大きな全身を写す鏡がある。この鏡で自分の姿を確認して帰るのが暗黙の了解。


たとえクリーンスタッフとはいえ、ビルを出るまではここの従業員。出入り口は違えどもエレベーターは同じ。身だしなみは整えておくのが当然。

京香に言われ、鏡の前に立つ。鏡に映る自分は全然違った。京香に服を借りたときはとりあえず、着ていた服よりはいいとは思ったけれど似合うとは思わなかった。


でも、今は素直に可愛いと思ってしまった。そんな自分がちょっぴり恥ずかしいけれど。
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