愛され系男子のあざとい誘惑
「こちらへどうぞ」


案内されたカウンター席は全面ガラス張りになっていてキラキラと輝く夜景が見渡せる特等席。

バーカウンターにはたくさんのお酒が並んでいて、普通のバーですら行ったことのない私は借りてきた猫のようにおとなしく座っていることしかできなかった。


「しばらくお待ちください」とここまで案内してくれた女性が離れてしまい、ますますどうしていいのかわからない。


私の他にも何名かカウンター席に座っているけれど、みんな常連客のようでバーテンダーさんたちと親しそうに会話をしていた。


「大変、お待たせいたしました」


ポツンと一人場違いな場所にいて、居ても立っても居られない気分になった私は席を立とうと決めた。でも、そんなときだった。聞き慣れた声が私の耳に届いたのは。


「あれ?もしかして優美ちゃん?」



バーカウンター越しに私の目の前に立っているのは紛れもなく、藤澤社長。白い長袖シャツを着て、その上から黒いベスト。


更にはキュッと黒のネクタイをしていて、髪もワックスで固めてあった。
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